2006/09/19

帰国

1ヶ月のミュンヘンでの生活を終えて帰って参りました。飛行機でドイツから日本へ来ると時差ってものの影響で時間が7時間消し飛ぶという現象が起きるため、夕方から深夜まで部屋で眠っていたのでこのような時間に更新しております。

さて、ドイツでは筆舌に尽くしがたいほど貴重な経験をしてきたのですが、それをブログで書くか否かで多少迷っています。もしそれを書けば女の子にモテモテになり、宝くじに当選し、身長が10セントほど伸び、顔もイケメンになり、これまでのさえない自分にさよならできる、というのなら迷わず書くのですが、そんな確証はありませんし、なによりあれなんですよね。うん、めんどい。

それにドイツでの日記を書くとなると固有名詞やら地名を書かねばならず、それを書くと検索で友人がここに到達し見事にサイトバレ。一人にバレたらすぐ別の人に伝わり、そこからまた別の友人へと伝わり、負の連鎖によって大学の友人にこのブログがあまねく知れ渡って僕の大学生活はずたぼろ。キャンパスで「グレエ」「やさぐれ」などと罵られるわトイレに入っていたら上からバケツで水を浴びせられるわで僕は精神的に追いつめられ大学を休学、そのまま復学のめども立たないまま引きこもりになり、ついには大学中退。親元に戻るも将来の見通しはなく、家出して一生橋の下で野良犬を話し相手にダンボールの家に住む。なんてことにもなりかねませんので、あまり気が進まないのですよ。

でもまあ、この1ヶ月でかなりネタもできたので、それをすべて完全に封印するのもどうかな、と。それはちょっともったいないんじゃないかな、と。そういうわけで、留学中のことはネタがなくなったときにでも書いてゆくことにします。

いやね、ドイツ語をしゃべるのってなかなかおもしろいですよ(もうネタがなくなった)。1ヶ月間、両親と子ども2人の一般家庭に合意の上で忍び込んでいた(いわゆるホームステイ)のですが、日本語なんて一つも通じないですからね。はじめの頃、どうしても僕が理解できないときは英語でフォローしてくれたりしたけど、それ以外はぜんぶドイツ語。もうね、最初なんて何言ってるかぜんぜん分からない。「お前は今すぐ死ぬべきだ」とか言われてたとしてもぜんぜん分からない。でも、少しずつ学習していって、相手の言うことが分かるようになったり、自分のことを伝えられるようになってコミュニケーションが成立してくるのが喜びなんですよね。

留学中にミュンヘン以外のいくつかの街に旅行にいったのですが、特にハイデルベルクの美しさはすばらしく、その場でブリーフ1枚になってしまいそうなほどでした(またネタがなくなった)。ゲーテをはじめとする詩人や哲学者らが好んで散歩したといわれる哲学者の道。旧市街から石橋を渡って対岸へゆき、そこから細い道を15分ほど登るとその哲学者の道に出るのですが、そこから眺めるハイデルベルクの街と城は中世の風景そのものです。女の子がほうきに乗って宅急便の荷物を運んでてもなんら不自然ではない感じです。

こんなことを書いていたらまたドイツに行きたい、ってかむしろドイツに帰りたいとさえ思いはじめて若干ホームシック(?)になってきたのですが、あれですね、唐突ですが、相互リンク先の皆様にはご迷惑をおかけしたことをお詫び申し上げます。

1ヶ月ほぼ更新がなかったわけですから、もうコメント欄はアラシコメントでいっぱいになり、ブログは炎上。僕のメアドは巨大掲示板にさらされウィルスメールが山のように届いてメールボックスは破裂。このブログへのリンクはことごとく削除。なんて憂き目に会っても文句は言えない状況だったわけですが、皆様仏のような心をお持ちの様で、そのようなことはなく、感謝の心でブリーフ1枚になってしまいそうです。これからは留学以前のような更新に戻ると思いますが、なにとぞよろしくお願いします(ブリーフ1枚で土下座しながら)。

2006/09/29

刺激的な生活

いや、まいったまいった。ここ数日なにもやっていない。ほとんどひととしゃべっていない。ここまでだめ人間になってしまうとなにか法律に触れてくるのでは? というほど存分にだめ人間ぶりを発揮している。

僕がなぜこれほどだめな人間になってしまったかと言うと、それは留学時との環境の差が原因なのだとおもう。ドイツにいたころは生活のすべてが刺激に満ちていた。スーパーで買物をするのさえ、ちょっとした冒険だった。それが日本に戻ってきてしまったことで退屈な日常に引き戻され、生活のなかに刺激がなくなってしまったのだ。それこそ夫が朝から晩まで仕事仕事でかまってくれず、とうとう近所の19歳の青年に色目を使い出した39歳主婦のY子さんくらい刺激のない生活。

これではいけない。なんとかして刺激を得て、充実した生活を送らねばならない。ということで、どうすれば刺激に満ちた生活を送れるかを考えてみた。

刺激というのは、すなわち急激な変化のことである。刺激が欲しいなら、まず自分自身が急激な変化を遂げればよい。たとえばファッションをがらっと変えてみる。そうすればいつも以上に友人からの注目を受け、それが刺激になるはずだ。

あるいは別の意味での刺激を得るために、裸にトレンチコートを着て街を歩く、というのもいいかもしれない。いつもは気にも留めなかった他人の視線が気になって仕方なくなるだろう。ちょっと勇気を出して電車やバスに乗ってみたり、女性のまえで脱いでみたり。そのときの刺激のみならず、次の日から留置場という新しい環境で刺激的な生活を送れて一石二鳥。

ほんとうに法に触れるだめ人間の完成、というわけだ。

2006/10/04

隣の席

秋学期もダルい授業がはじまった。そうおもった。

今にも卒倒して救急車で運ばれるんじゃないかと心配になってしまうほど常に具合の悪そうな教授のラテン語の授業だ。春学期にもその教授の授業に出ていたのだが、まるで内容は身に付かなかった。が、単位の関係で秋もその教授の授業を取らねばならない。その授業の単位を取得しなければ3回生でもっとおもしろい別の先生の授業を取らせないもんね、という大学側の陰湿な嫌がらせに屈したというわけである。そんな僕は弱虫かい?情けないっておもうかい?

僕は圧倒的な大学の権力にひざまずき、己の無力さに涙を流した。ああ、僕はなんて非力で小さな人間なんだろう。授業一つ放棄することさえできないなんて、笑っちまうよ。僕は涙と鼻水で顔をくしゃくしゃにしながら、引きつった笑いを浮かべていた‥‥‥。と、そのとき、僕を呼ぶ声がした。

「グレエくん」

いよいよ頭がどうかしてきやがった。目の前に天使が見える。しかしお迎えにしてはまだちょっと早いんじゃないか?

「久しぶり!」

違う。それは、お迎えではなく、幻覚でもなく、実体を持った人間だった。それは、2ヶ月ぶりに顔を会わせた塩田さんだった。

「久しぶり!」

それから、彼女が僕の左側の席に座り、お互いに留学中の話をしたり(彼女は南米の某小国に行っていた)、ラテン語の先生の悪口をいったり、サークル活動(彼女とはおなじサークルに入っている)のことを話したりした。

彼女はあいかわらず充実した日々を過ごしていて、そうしてかわいらしく、僕は隣で会話しているだけでのぼせてしまうのだった。僕は彼女の微笑み一つに心を奪われ、おとなしくなってしまうのだ。

そんな僕は弱虫かい?情けないっておもうかい?しかし、そうだとしても、そのときかんじた無力さは、心地よいものだった。

2006/10/28

履修漏れ

「漏れも漏れも!」

一部の高校の履修漏れが問題となって以来、全国の高校がそんな声をあげている。履修漏れ。その問題は全国へと波紋を広げ、高校教育のずさんな実体が浮き彫りにされている。

おそらく、いや、これは絶対の自信を持って言えるのだが、文科省に提出していた書類と高校の授業の実体がかけ離れていたということは教育関係者なら誰しもが知っていたはずである。先生、教育委員会はもちろん、文科省も十分承知の上で黙認していたと考えざるを得ない。

ところで僕は高校時代、日本史と現代社会の教科書を買わされたことがある。新学年がはじまる前、真新しい教科書を手にし、煩わしさと好奇心の入り交じった感情にとらわれたのを覚えている。だが、とうとうその二冊の教科書は一度も使われることなく、高校で教えられた地理歴史は地理と世界史のみだった。

うん、なんか、僕も履修漏れで卒業してたっぽい。

いやいや、おかしいと思いましたよ。高校時代、地理歴史は世界史と地理の授業しか受けていないのに、大学に提出する調査書を見てみたら日本史と現代社会も履修してたことになってたから。あと、どんな類の謙虚さなのか知りませんが、なぜか地理はやっていないことになってました。

「あれえ?僕ってば現代社会と日本史やったっけなあ?」

と、鼻水たらしながら頭上に満開のハテナマークを咲かせて馬鹿面で卒業してしまったのですが僕が痴呆症だったわけではなかったのです。しかし不正に高校を卒業したということで、現在の僕はある意味片翼の天使となってしまいました。もし「僕イコール天使」という等式に言い表しがたい不快感を覚える方がおりましたら、満足な教育を受けないまま大学へと進学してしまったアンダーグラウンドなアウトローと言い換えても結構です。

「洋子、俺、お前に言っとかなきゃいけないことがあるんだ」
「どうしたのグレエ?そんな改まって」
「実は俺、今は大学生やってるけど、ほんとは違うんだ。本当は、堂々とキャンパスを歩けるような綺麗な人間じゃないんだよ」
「ど、どういうこと?」
「いいか洋子。驚かないで聞いてくれ」
「大丈夫。どんな秘密があったとしても、あたしはあなたを信じてる。驚いたりしないわ」
「ありがとう洋子。お前になら、隠さずに真実を言える。実は俺、高校を、履修不足で卒業してたんだ」
「嘘‥‥‥」

洋子の細い腕から力が抜け、少し持ち上げられていたコーヒーカップががちゃりと音をたててテーブルに落ちた。はねたコーヒーの一滴が彼女の白いブラウスの裾に染みをつくった。

「ごめん。いつか言おう言おうと思ってて、でもなかなか言い出せなくて、こんな遅くなっちゃった。本当に、ごめん」
「馬鹿!グレエの嘘つき!」

バッグを鷲掴みにして走り去ってゆく洋子。

「ま、待って!待ってくれ洋子!」

晩秋。冷たい雨が降りしきるなか、僕は傘もささずに彼女を追いかける。たった一分で下着の中までびしょ濡れだ。「洋子!」僕は道の反対側にいるびしょ濡れの彼女を呼ぶ。もう洋子しか見えない。後ろから追いかけてきていた喫茶店の店員が「金払え食い逃げ野郎!」と叫ぶ声さえもはや僕の耳には届かない。そうして道に飛び出す僕。トラックにはねられて救急車で搬送。三ヶ月の意識不明の後奇跡的に回復を遂げ、その後リハビリのためにはじめた粘土で彫刻の才能を発揮しゆくゆくは世界的な彫刻家になり世界平和にも貢献してノーベル平和賞を受賞。授賞式での僕のスピーチはこうだ。

「この受賞は僕だけに与えられるべき栄誉ではない。僕には愛する妻がいて、彼女が支えてくれたからこそここまでやってこれた。ありがとう、洋子」

ゲスト席に座っていた洋子に会場内の視線が一斉に集まる。ぽつりぽつりと拍手が聞こえてきて、そうして会場が割れんばかりの拍手が彼女に送られる。などという空想をしているうちに何の話だったか忘れていたんですけど、そうそう、履修漏れの話だったっけ。

要するに、教育というもっとも大事な世界で嘘や虚飾がはびこっているというのは絶対に許してはならない状況だと思うのです。今回の履修漏れ騒動を教訓として、これからは嘘偽りのない教育が行われてゆくことを希望してやみません。

あ、それと、これは独り言ですが、日本の大学では、授業の三分の二以上の出席がないと単位を認定してはならないという規定があるのですが、僕の大学の一部の授業は一度も出席せずに単位を取ることが可能です。

2006/11/01

口下手な男

もっと上手に話ができたらいいのに、といつも思っていた。

僕の口下手は幼少時代からのもので、いわば筋金入りである。この世に生を受けたとき、両親に「よろしくお願いします」の一言も言えず、ただただ泣きわめいていたことにはじまり、今日まであらゆる場面で失態を犯してきた。そのせいで少なからず損をしたり人に不快な思いをさせてきたような気がする。そう、今日のドイツ語の時間にも。

今日は二人一組になって会話テストをやったのだけれど、他のグループが先生の前で会話テストを受けているとき僕たちは暇だった。一応自習をしなさいということになっていたのだけれど、そんなものはすぐに終わってしまう内容だったので、僕は会話の相手になっていた洋子とおしゃべりをしていた。

途中、同じクラスの男に洋子が話しかけた。

「髪切った?」
「うん、切った切った」

微笑む洋子、微笑む男。僕としてはもう、その男には即刻消えて頂きたい。俺の洋子に手を出すな、洋子は俺のものだ、という勘違いも甚だしい嫉妬の感情を芽生えさせ、再び洋子の心をこちらへ向けるべく話しかけます。

「俺もそろそろ切ろうと思ってるんだ。けっこう長いでしょ?」

といって前髪を触る僕。

「え、そうかな?」
「最近うっとうしくなってきた」
「でも、あたしは長い方が好きだよ」

なんてね、これが女子高生のメールだったら完全に文末にハートマークが二三個つくような声で言ってきましてね、こちらとしては「この女、俺に惚れてんじゃねえの?」と思わざるをえないわけです。なのに、僕ときたら、

「そう?」

の一言ですよ。まったく何を考えているんだこのカスは、と自分に言ってやりたい。このくそガキが、と。こういうところで口下手が災いするのです。もし自分が人並みに気の利いたことが言えればこうなっていたはず。

「でも、あたしは長い方が好きだよ」
「俺も、洋子のその長い髪、すごく好きだよ」
「髪だけ?」
「ううん。髪も、手も、そのダイヤのように輝く瞳も、洋子のぜんぶが、大好きだよ」
「グレエ‥‥‥」
「洋子‥‥‥」

二人は抱き合ってキス!他の生徒と先生が唖然とするのもかまわずにディープキス!そうなっていたはず。なのに実際には「そう?」「うん」で終りですから、僕はだいぶ損をし洋子の気持ちにも応えられなかったわけです。

また、その後、洋子がこんなことを言ってきました。

「あそこの、後ろの席に座ってる子、綺麗じゃない?」

と、ある生徒を目で示していうわけですよ。なんでそんな女好きの男みたいな話題をふってきたのか今一つ理解できないのですが、その時の僕の反応はこうでした。

「うん、なんか東洋っぽい、アジアンな綺麗さがあるね」

そう言ってからもう、十秒と待たずに後悔した。それはそれは後悔した。なんかもう、大後悔時代に突入しちゃったんじゃないかというほどに後悔した。だって、どう考えてもそこはこんな会話に持って行くべきだったじゃないですか。

「あそこの、後ろの席に座ってる子、綺麗じゃない?」
「うん、東洋っぽくて、すごく綺麗だね。でも、洋子の方がずっと綺麗だよ」
「ほんとうにそう思ってるの?」
「もちろんさ。洋子はこのクラスの中で、いや、この大学で‥‥‥違う。世界でいちばん、綺麗だよ」
「グレエ‥‥‥」
「洋子‥‥‥」

そして二人は抱き合ってキス!他の生徒と先生が呆然とするのもかまわずにディープキス!ディープキス!もっかいディープキス!と、そうなっていたはず。なのに実際には「アジアンな綺麗さがあるね」「だよね」で終りですから、僕はだいぶ損をし洋子の気持ちにも応えられなかったわけです。

僕の口は、何のためにあるんだろう?
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