2006/07/14

ふたり勉強会

「あさって授業が終わったあと、いっしょに勉強しない?」

さて、最近の僕は彼女が欲しいとかなんとかうわ言のように繰り返しているのですが、正確に言うと、別に恋人としてではなく、とにかく女の子と遊んだりしたいというのが僕の本音なのです。そんな衝動に突き動かされた僕が塩田さんに送信したメール、その内容が上記のもの。

塩田さんというのはサークルの女友達です。彼女は留学や旅行で世界中を駆け巡っているという、まるでバイタリティにニョキニョキと足が生えたような人で、去年からサークルでは親しくしていました。それで、今学期は木曜日の授業を僕と彼女がいっしょに受講しているので、授業後にふたりで勉強をしようと誘ったというわけです。返信されてきたのがこのメール。

「うん!やろうやろうp(^ ^)q」

きたこれ。いやもう、ガッツポーズを決めて叫びたいくらいの気分でした。

そうして迎えた木曜日、つまりきのう。5限の授業が終了すると同時に、友人同士で座っていた彼女のもとへ。他の友人たち3人から塩田さんをかっさらうようにしてふたりで教室を出ました。

「どこでやろうか?」
「図書館にする?」
「いや、図書館はちょっと」

うん、図書館はだめなんですよ。だって自由におしゃべりできなかったら楽しみは半減するじゃないですか? はっきり言ってしゃべるのが目的じゃないですか? もう勉強とかどうでもいいじゃないですか?

「じゃあ食堂でやろう」
「うん」

というわけで午後8時まで営業している学生食堂へ。僕たちが席についたのが6時ちょっと過ぎですから、2時間弱は勉強できるはずです。でまあ、すぐ勉強をしようかとも思ったのですが、お腹が空いたのでまずは食事をすることにしました。

彼女も僕も思い思いの料理を持ってきていただきますと言って食べるわけなんですが、なんか、ここでやたら緊張してきたのよ。え、お前はなんでそんなに心を乱しているんだ、と自問自答したいほどに緊張してきたのよ。あれ、これ、なんなんだろう?

そこでごはんを口に運びながらよく考えてみたのですが、彼女とはサークルではそこそこ親しかったものの、サークルの枠を離れてプライベートで、しかも二人だけになるというのははじめてだということに気づきました。ぎこちないはずだ。

そんな空気のなか、僕の心に語りかける何かがあった。そう、もしこの状況でくさい口説き文句を言ったらどうなるのか。以下、思考実験中の会話。

「ねぇ、塩田さん、神様っていると思う?」
「えっ、どうだろう? なんでいきなりそんなこときくの?」
「おれは絶対にいると思うんだよね」
「なんで?」
「だって、いま‥‥‥おれの‥‥‥前に、神様の使いが‥‥‥」

いや、どうがんばっても言えるはずがねぇ。

ふつうの会話さえどぎまぎしている状態なのに、そんなことを言い放とうものなら世界が凍りつくことは必至。確実にすべてが終わる。彼女のなかの僕の存在が抹消されてしまうでしょう。口説き文句なんて問題外だ。

話が横道にそれましたが、しかし、そんな堅苦しい雰囲気も、何気ない会話を重ねる度にだんだんと和やかになってゆきます。サークルの話、留学してたときの話、天気の話‥‥‥。

「きのうは空がすごくきれいだったよね」
「うん、おれもきのうは雲の写真、ケータイで撮っちゃったよ」
「きょうも空、きれいだね。あっ、夕日‥‥‥」

食堂の窓の外には、木の葉のかげから、かすかにオレンジ色の太陽が輝いていました。

そのとき、ふと食堂の中に視線を写すと、そこにはサークルの他のメンバーの姿がちらほら。それをみて彼女が小声でこう言った。

「なんか、こっちに気づかれたら嫌だね」

きたこれ。

なんか知らないけどグッとくるじゃないですか、この一言。なんか、いわゆるぬけがけってやつをしてるみたいでグッとくるじゃないですか。グッときたんですよ。僕はそれを聞いて平然と「え、そう?」とか言ってるんですけど、もはや平常心を失っているじゃないですか。失ってたんですよ。

幸い、彼らがこちらに気づくことなく食事を済ませ、本題の勉強にとりかかります。彼女はフランス語、僕は英語の勉強。まあ、はっきり言って僕はもう勉強とかどうでもよかったんですけどね。

それでも教科書を復習などをしつつ、分からないところを彼女の質問したりするわけです。彼女は高校時代に留学していた経験があり、英語に関してはプロフェッショナルな域に達しているので、正しい発音などをレクチャーしてもらうわけです。

「塩田さん、ここの文章、ちょっと読んでみて」
「声に出して読むの?」
「うん、塩田さんの発音聞いてみたいから」
「"Americans don't speak a single ‥‥‥‥‥‥"」
「やっぱ発音きれいだね」
「ありがとう」

まあ、「発音聞いてみたい」というあたりで、もう勉強の内容とは無関係で、興味本位であることが明白になっているわけですが、なんか、そんなやり取りが楽しいことこの上ない。ときどき雑談などしつつ、食堂のがやがやとした雑音を背景に時は過ぎてゆきます。

僕たちはL字型になって四人用のテーブルについて勉強していたんですが、客観的にあのときの僕と塩田さんをもう一人の僕が見ていたら、確実によからぬ感情を抱いていたと思う。呪詛の念とか送っていたと思う。

そんな楽しい時間も瞬く間に過ぎてゆき、午後8時。食堂には閉店の時を告げる音楽が。僕たちは勉強道具を片付けて、すっかり暗くなった外へ出てゆきました。冷房の聞いていた食堂のなかとは違って、湿った暖かい、夏の夜の空気がからだを包み込む。

夜のキャンパスは、茶色のレンガで統一された建物がライトアップされ、昼のにぎやかな明るいキャンパスとは趣きの異なる空間をつくりだしています。そこを塩田さんと正門に向かって歩いていったのですが、もし別の僕が、客観的にこの二人を見ていたとしたら確実に怨念とか送っていたと思う。アフリカの少数部族に伝わる強力な呪いをかけていたと思う。

正門を出て、もう人通りもまばらとなった駅までの長い坂道をくだってゆく。いつもは長くて長くて嫌になるこの坂も、この日だけは悪くないと思いました。いや、もっとずっとずっと続いていればいいのに。下宿が隣の駅にある塩田さんは駅へ、歩きで通っている僕は別の道へ分かれて帰宅しましたとさ。

とまあ、たんたんときのうのことを書いてみたわけですが、あれですね、これの話にはオチがないのかと思われたでしょう。しかし考えてみると、恋にオチた可能性も否定できないってことで。

2006/07/27

反カップルのアジテーション

「すべてのカップルは別れるべきである。」

先日、試験開始前に友人ら3人といっしょに大学の教室でこれまでの試験の出来具合についてしゃべっていました。いつもとおなじ、むさ苦しい男の友人たちと。

すると近くのドアからサークルの友人が入室してきたのですが、けしからんことに、そいつの隣には女の子がいたのですよ。女の子と仲よくふたりで教室に登場し、爽やかな笑顔で手をふって僕の横を通り過ぎてゆく友人。まるで格の違いを見せつけるかのように僕ら男4人のそばを通り過ぎてゆく友人。そしていい匂いをたなびかせて歩いてゆく女の子。そのとき、僕の心のなかにドス黒い感情が芽生えてきたのに気づきました。

なんだろう、この胸の痛みは? なんだろう、この胸を圧迫するような黒い塊は? そのとき、友人と隣の女の子に呪詛の視線を送りながら、僕は思いました。「すべてのカップルは別れるべきである」と。

彼らが恋人同士なのかどうかは分かりません。ただの友人かもしれない。けれど、男が、しかも知り合いの男が女の子と仲よく行動をともにしている姿を見るのは精神衛生上よろしくありません。心の弱い僕なんか、下手したら自殺に追い込まれかねない。カップルは敵であり悪なのです。寂しい人間を精神的に死へと追いやる、史上最悪の殺人兵器に他ならないのです。

僕は正義のために言います。「すべてのカップルは別れるべきである」と。そしてこの正義を社会に浸透さえるため、もういっそ、法律に明記すべきだと思うのです。具体的な禁止事項を挙げるならこんな感じになるのが望ましいと思います。

1:男女が手をつないではならない。
2:男女が必要最低限以上の会話をしてはならない。
3:男女がともに歩いてはならない。
4:男女が隣同士の席に座ってはならない。
5:男女がデートをしてはならない。
6:男女が肌と肌を触れ合ってはならない。
7:恋愛に関する話題は公共の場において一切出してはならない。
8:恋愛を連想させる話題、単語は口にしてはならない。
9:新聞、テレビ、インターネット等、すべてのメディアにおいて恋愛に関する表現を禁止。
10:恋愛をしてはならない。

まあざっとこのくらいの規則は必要だと思います。これらくらいのことをしないと、世の中に無数にいる彼女のいない男性、彼氏のいない女性を守ることはできないと思います。ぜひこれからの政治ではこの路線を徹底して頂きたい。小泉内閣以上に、構造改革に勤しんでもらいたい。マニフェストでこの路線を表明した政党と候補者にはもう無条件で投票する。汚職議員でもプロレスラーでも構わず投票する。

僕のこの主張はやや過激に思えるかもしれませんが、実際は現在の社会の方が狂っているのですよ。道を歩いても電車に乗っても学校へ行ってもカップルカップルで、恋愛界における弱者たちは心底まいっているのです。苦しんでいるんです。下手したら自殺に追い込まれる、そんなぎりぎりのデッドラインで耐え忍んでいるのです。毎晩一人寂しく部屋に戻り、やることといったらブログの更新ぐらい。これはもう、マイノリティに対する弾圧以外の何者でもない。明らかに公共の福祉に反している。憲法違反です。違憲ですよ違憲。

現代日本はなんだか元気がなくて、既成の社会に対する反抗すらできないくらい疲弊していますが、この残酷な現実を考えるならクーデターが起きない方が不自然なくらいなんです。革命が起こったって不思議じゃない。なのに孤独な男女はみな卑屈になって押し黙っている。部屋で孤独にブログの更新をしている。しかし、僕は問いたい。呼びかけたい。

きみたちは本当にこのままでいいのか?
こんな社会が正しいって、心の底から思っているのか?
僕たちの権利を、もっと主張すべきなんじゃないか?
さあ立ち上がるんだ!
僕たちの自由のために!

僕一人にできることといったら、こうしてここで細々と主張を述べることくらいですが、しかし、今できることを精一杯やっておきたいと思います。来るべき、新世界のために。

なお、僕に彼女ができた場合はこの限りではありません。寂しい男女をガンガン自殺に追い込む勢いでイチャイチャするつもりです。

2006/07/31

ゼミ飲み会

やばい。今日は更新しようと思ったのに、もう30分しかない。30分じゃまとまった日記は書けんしなぁ‥‥‥。ということで、30分でできる限り書いてみようと思います。中途半端でも、30分経ったら日付がかわる直前にアップします。あ、あと29分。

きのうはゼミの授業のメンバーで飲み会にいってきました。男4人女5人で居酒屋に行って、これは合コンですか、みたいな感じで男女が向かい合って座りました。もう半年近く、長い人とは1年以上の付き合いなのに自己紹介とかしそうになった。

それでだんだんお酒が入ってきて、みんな饒舌になってくるから、自然と恋愛の話になるんですけど、ほんと、若い奴らの話ってよく分からないの。理解できない。

「恋愛には安定とドキドキ、どっちが大事だと思う?」

とか、そんなクソみたいな話題で5時間ですよ5時間。おなじ居酒屋で5時間。5時間もあったら正樹と礼子が魔王を倒して現実世界に帰還しハッピーエンドを迎えられるわ。ついでにサイドストーリーとかも書けるわ。でも飲み会では「安定とドキドキ」だけで5時間ですからね。もう信じられない。

飲み会ではこう、そういうシチュエーションで中心人物になるようなお調子者がいるわけなんですが、そのバカがまた一人一人聞くんですよ。安定とドキドキどっちが大事だと思う? って。でまあ、僕ははっきりいってその質問の意味もよく分かりませんし、どうでもよかったのでこう答えておきました。

「彼女さえできればどっちでもいい」

うん、みんな笑ってたけど、空気読めねぇな、とか思われたかもしれない。まあ、ぶっちゃけ空気を読まずにぶちこわすことに快感を感じたりするんですけどね、僕は。あと20分。

僕の横に、林くんという男が座っていましてね、彼はまあ、なんていうか、僕とおなじであんまり女の子にモテなそうなんですよ。こう、ちょっとぽっちゃりしてて、控えめな感じで、飲み会でもそんなに積極的にしゃべる方ではないんですね。で、僕は彼に冗談のつもりで「高校のときつきあってた彼女の話してよ。どこで知り合ったの? 相手はどんな人?」とかふったら、ためらいつつ語りだしたんですよ。

「うん。イギリスに留学してたときに、別の高校から来た人で‥‥‥」

ほんとに彼女いたんかい。

これにはもう、ショックでショックで。他の男は、一人は現在彼女持ちで、もう一人は今はいないけど付き合ってた人はいるというプレイボーイだったので、僕だけ取り残された形ですよ。なんやねんお前ら。そんなに僕を自殺に追い込みたいのか? あと14分。

あ、そうそう。僕の斜め前の席にちょっとぽっちゃりめのかわいい女の子が座っていたんですよ。なんか、ルネサンスの絵画からそのまま出てきたような、でっかい貝殻の上に裸で立っていそうな女の子が。で、その子の胸元がかなり広く開いていましてね、なんていうか、その、谷間の上の部分が見えてました。悟空だったら「お前、胸に尻があるのか?」とか言いそうなくらい見えてた。

なので、他の友人たちが「安定かドキドキか」で議論してるあいだも、林くんが高校時代の恋愛経験を語っているあいだもチラチラとヴィーナスみたいな女の子の胸を見てました。酒を飲みに行ったのか胸の谷間を見に行ったのか分かりゃしない。あと9分。

でまあ、最初にも書きましたけど、おなじ居酒屋で5時間ですよ5時間。もうお尻が痛くなった。あの子の胸の谷間がなかったらとっくに帰ってたと思う。5時間も「安定かドキドキか」で議論された日には洗脳だって可能ですよ。怪しい宗教とかに余裕で騙される自信がある。

林くんに彼女がいたという事実も自殺ものの衝撃だったんですけど、ある男がヴィーナスに「さいきんどうなの? どうなの?」とか、オヤジだったら確実にセクハラで逮捕されてるような質問をしたときに、彼女が「いま1年と3ヶ月」と言ったのも地味にショックだった。いや、妊娠1年3ヶ月ではなくてですね、それだったら明らかに異常なわけですけど、そうではなく、現在の彼氏とつきあいはじめて1年と3ヶ月経つらしい。ちくしょう! あと2分。

とまあ、そんな悲劇に満ちた飲み会ではあったのですが、なんだかんだで楽しい集まりでした。うん、みんないい人だし、これから大学卒業までいい関係でいられたらいいな、と思います。まあ、このブログがバレたらすべては終わりだと思いますけど。

検索やランキングから知り合いが来たりしませんように。トップに写真載せてるから、来ちまったら一瞬でバレるから‥‥‥。

2006/08/04

部屋探し

「え、まだ探してないの?」
「今頃探しはじめるの?」
「おれなんかもう、先月に決めたよ」
「今の時期じゃいい部屋残ってないよ」
「遅すぎ。死ね」

ヘコむ。ほんとヘコむ。

僕は来年、大学の3回生になりまして、そうすると現在の辺境の地から京都市内のキャンパスへと晴れて移れるようになるのです。文系の学部では、1、2年はここの田舎のキャンパスに強制収容され、3、4年は市内のキャンパスで京都ライフを謳歌できるという仕組みになっているのです。うん、これ言ったら確実に大学を特定されるのだけれど、説明しないと話が先に進まない。

で、そうすると来年は引っ越ししなければならず、部屋を新たに探さなきゃいけないんですよ。それで、「そろそろ探そうかなぁ」と思いはじめたころに言われたのが上記の言葉。なんか、他の人は僕に内緒でさっさと部屋探しをはじめていた、っていうかむしろもう終了していたようで、完全に取り残される形になっていました。イジメか?

いやいや、おかしいじゃない。なんでみんなそんな早いの? まだあと半年以上先の話だよ? 来年の春の話だよ? 来年のことを言うと鬼が笑うって言うじゃない? と、疑問と憎しみの感情を抱いたのは僕だけだったようで、どうやらこの時期には決めているのが普通らしいです。

思えば1年と数ヶ月前、地元からこちらへ引っ越ししてくるときの部屋探しもかなり遅くなってからでした。それこそ3月の後半、20日も過ぎてあと10日程度で入学式という時期、ようやく僕は部屋探しをはじめたのでした。入試会場でもらった部屋探しのパンフレットをみて適当に物件を選び、次の日に夜行バスで京都へきて部屋をみて決めるという荒技を決行したのでした。2年住む部屋を2日で決めるとか、ちょっとおかしいんじゃないか、と思いつつ。

そんな過ちは2度と繰り返してはならん、ということで、きのう、ようやく重い腰をあげて不動産屋へいってきました。

まず、いつぞやにポストに突っ込まれていたパンフレットをぱらぱらとめくり、いい感じの物件をピックアップ、まあ、どうせそういうところはもう予約済みで、「ここがいいんですけど」とか言ったら「遅すぎるよハゲ」とか言われるだろうと思いつつもピックアップしておきました。

不動産屋に入ると20代後半くらいの大川さんという男の人が出てきて対応してくれました。

「すみません、部屋を探しているんですけど」
「たとえばどの部屋がいいとかありますか?」

どうせもう空いてる部屋なんかないよな、と思いつつ希望の物件を告げる僕。

「あの、このマンションとか、いいかなと思ってるんですけど、もう空いてないですよね」
「そこですか。空いてますよ」

え、空いてるんですか?

パンフレットのさいしょの方に大きく取り上げられていた物件のくせに、いかにも一押し人気物件、って感じで載ってるくせに「空いてますよ」ですからね。「今の時期じゃいい部屋残ってないよ」とかいう奴らの悪魔のささやきはいったいなんだったんだ。

その後も2つほど候補にあげていた物件を言ってみたんですが、どっちも空き部屋有りでした。いやいや、「遅すぎ。死ね」とかいう奴らの悪魔のささやきはいったいなんだったんだ。お前が死ね。

ちなみに、大川さんと部屋探しの相談をしているあいだ、他の席では別の人が相談をしていました。それは両親とその娘の3人で、たぶん娘は僕とおなじように来年3年生になって引っ越しをするのだと思うんですが、はっきり言ってめちゃめちゃかわいかった。絶世の美女だった。なんていうか、肌が雪のように白くて髪は黒猫の毛並みのようにつやつやとしてうつくしく、その瞳はきれいなものしか見たことがないというくらいに輝いていました。この歳で両親とともに部屋探しにくるくらいですから、おそらく箱入り娘だと思われますし、何より雰囲気がほんと、お嬢様、って感じなのな。「美しい」と言われる女性はけっこうごろごろいますけど、もうそんなのお話にならない。あの子と比べたらもう、世の中にはブスばっか。ブスしかいない。今まで「美しい」「かわいい」「きれい」といった言葉を安易に使いすぎていたのを後悔した。本当に「美しい」っていうのはこういう人のことを言うんだな、って気づかされたもの。性の低年齢化が進み、純粋さが失われ、ファッションは奇抜になり、薄汚れてチャラチャラした若者ばかりのこの腐った平成の世の中にこんな人がいるなんて。たとえるならそれは、荒野に咲いた一輪の百合の花、土の中に眠るダイヤモンドの原石、狼の群れのなかの一匹のウサギ、そんな感じだった。お父さんなんか、だっさいポロシャツ着てたけど「娘には指一本触らせないぞ」っていう騎士のような禍々しいオーラを発していたからな。たぶん僕がその子に声をかけたりしてたら、そのお父さんに殺されてたと思う。ああ、でも、そんな純白のシルクのようなその子と恋人になりたい。手をつないで京都御所を歩きたい。お父さんの目の届かないところへいって、彼女の唇を奪いたい。何も知らない彼女という純白の画用紙に、僕の絵の具で絵を描きたい!

「じゃ、部屋をみにいきますか」

え、あ、部屋探しか。そうそう、それで、いろいろ候補はあったのですが、結局途中でめんどくさくなって、さいしょに告げた3つの中から2つにしぼりましてね、その物件を大川さんと見に行ってきて、よさそうだった方に決めてしまいました。

立地は京都御所から自転車で15分くらいのところで、家賃は4万数千円というお手頃価格。壁がコンクリートむき出しというおしゃれなデザイナーズマンションです。さらに無料で光回線接続のネット使い放題。どうですかこの物件? いいと思いません? あ、どうでもいいですか。すみません。

ということで、気づいてみればまたしても2年住む部屋を2日で決めてしまいました。

2006/08/14

エロ本の山

2浪目に入居していた予備校の寮、そこはありえないほどネタに満ちた異空間でした。

北海道から沖縄まで、文字通り全国から浪人生が集まってきて、一ひとつ屋根の下で受験生活をともにしたのですが、その寮の生徒は一癖も二癖もある連中ばかり。毎日がカルチャーショックの連続でした。

その寮というのは僕の出身県である埼玉にありました。駿台や代ゼミのような大手ではなく、認知度の極めて低い弱小予備校。2浪目を迎えようとしていた僕がその予備校のパンフレットを見たとき、無料特訓寮という文字が目に飛び込んできました。

当時、実家で生活することが嫌になってきていた僕は、すぐさまその寮に入れるよう申込書を書き、ダッシュで予備校に送付しました。大手予備校の寮だと月々数万から数十万という大金が必要で、とてもじゃないが僕の家庭の経済状況では入れてもらえない。けれど、この寮なら食費と電気代など、最低限の料金だけで入れてもらえる。まるで夢のような寮の存在を知って、2浪したというのに鼻歌を歌いださんばかりの勢いで喜んでいました。

業界初と言われる無料特訓寮。一応知ってはいたのですが、なんか、部屋が部屋じゃないの。もはや部屋とは呼べない。広さはわずか2畳半。ベッドと机で完全に埋まる。出入り口もドアではなくてビニールのカーテンで、空調の関係で天井付近はすべての部屋が繋がっています。分かりやすく言うと、広いワンフロアを壁で仕切っただけ。そんな蜂の巣みたいな寮で集団生活がはじまりました。

寮のメンバーは思い出すだけで吹き出すような濃い面々ばかりだったのですが、その中でもひと際異彩を放つ松島くんという男がいました。

彼は一見するとクールなイケメンで、ちょっとエミネムに似ているインターナショナルな顔をしていたのですが、中身はユーモアとエロの塊。彼のギャグセンスとエロスは文字通り筆舌に尽くしがたいもので、到底ここで僕が彼のすごさを伝えることなど不可能なほどでした。予備校の先生や寮の仲間のモノマネ、あるいはウィットに富んだ冗談で毎日みんなを笑わせる松島くん。当然、下ネタも容赦ない。

「あれ、どこいったんだろ」

ある日、僕は共同の冷蔵庫に入れておいたサラダのドレッシングがないことに気づきました。そこに松島くんがあらわれた。

「どうしたの、グレエくん?」
「ドレッシングがなくてさ」
「どういうやつ?」
「白いやつ」
「じゃあ、おれが代わりに白い液体出してあげるよ」

それだけは勘弁して欲しい。

で、彼は真性のエロでしたから、部屋の中がエロ本ですごいことになっているのですよ。寮はテレビもパソコンも禁止でしたから、エロツールとしてはもう本しかないわけなんですが、彼の部屋はエロ本でいっぱいだった。

何度か部屋を覗いてみたことがあるのですが、部屋の隅に箱が置いてあって、そこに整然とエロ本が並べられているのですよ。変に几帳面な所があるのか、きっちりと箱の中にエロ本が整列している。ここはエロ本専門の図書館ですか? というくらいに品揃え豊富なエロ本が陳列されているの。そして壁にはヌードのポスター。明らかに浪人生が勉強に集中できる部屋ではない。

松島くんは冗談もおもしろいですし、いつもみんなの中心にいてひたすら周囲を笑わせる、というキャラクターだったのですが、彼とは対照的にほとんど他人としゃべらない植村という人物がいました。

さきほどは書かなかったのですが、寮の部屋は建物の2階と4階にありまして、僕や松島くんがいた蜂の巣みたいな無料の寮は2階だけ、4階にはそれとは別に有料の部屋がありました。そちらは10畳もある立派な部屋。しかし2階の住人が自然と仲よくなるのに比べ、4階の住人はやや孤立しがちな傾向がありました。植村くんはその典型で、僕などは1年おなじ建物にいてしゃべったのが2、3回。彼の生態系は謎に包まれていました。

植村くんはやや小太りで、頭髪は激しい天然パーマ、朝見ると爆発した志村けんですか? と尋ねたくなるような外見でした。こう言っては悪いですけど、見た目は秋葉系。

そんな彼と、夕食時に交わしたわずかな会話がこんなものだった。

「植村くんて、何か趣味あるの?」
「まあ、アニメを観るくらいかな」
「どんなアニメ?」

そう尋ねた瞬間ですよ。聞いたこともないようなアニメの名前が出てくる出てくる。これがあの寡黙な植村くんか? と疑いたくなるほどの勢いでしゃべり出して、あのアニメの主題歌がいいとか、あの声優はすばらしいだとか、さながら火砕流のごとくしゃべりまくる。走り出した彼を止めることなんて、もう誰にもできやしない、ってな勢いでしゃべりまくる。

なんか押しちゃいけないボタンを押しちゃった気分で呆然とする僕。彼は夢中でしゃべり続けるのだけれど、僕がわかったのはエヴァンゲリオンという単語だけでした。植村くん、見た目だけでなく、中身も真性の秋葉系だった。

ある日、そんな植村くんも住んでいる4階に、他の友人に用があって登って行ったのですよ。友人の部屋にいく途中に植村くんの部屋があったのですが、タイミングよく彼がその部屋から出てきました。僕は無難におはようと挨拶して通り過ぎようとしたのですが、その時すごいものを見てしまった。

彼が出てきてドアが開いていたため部屋の中が見えたのですが、おびただしい数のエロ本が部屋中に散乱してたの。部屋の散らかり方も半端じゃないのですが、圧巻なのがそのエロ本の数。下手したら3桁の大台に乗っているんじゃないかっていうくらいあった。

上述の松島くんの部屋のエロ本にも驚きましたが、もうその比ではない。松島くんの部屋のエロ本を美しい峰を描く富士山だとするなら、植村くんの部屋のエロ本は登山家を容赦なく阻むエベレスト。下手に足を踏み入れたらクレバスに落ちるようにエロ本に飲み込まれて遭難しちゃうんじゃないかっていうレベルだった。僕は廊下から彼のありえない部屋を見てしまい、唖然として声さえ出ませんでした。

1年間の寮生活を終え、植村くんがどの大学に進学したのか僕は知りません。しかし日本のどこかで、彼もまた大学生活を謳歌しているのではないかと思います。おびただしい数のアニメとエロ本に囲まれながら。
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