2008/06/03

きみはプリンセス

知り合いに、めちゃめちゃかわいい女の子がいる。特筆すべきかわいさの女の子がいる。

彼女を一目みた男で恋に落ちなかった男はいないし、少しキャンパスを歩いているだけで見知らぬ男子学生たちがびっしり集まってくるという、それほどの美人。まるで、ぼーっとしながら歩いていて天国から足を踏み外して落ちてきた小柄な天使。そんな雰囲気。

彼女はそんな絶世の美貌の持ち主でありながら、それを鼻にかけることがない、きわめてまじめな人なのです。いい子なのです。大人しく、人当たりのいい人なのです。むしろ、静かな人です。

けれど、きょうは食堂で意外な一面をみてしまいました。

ぼくが食堂でひとり、孤食の時代を体現するがごとくに夕ご飯を食べていると、そこに、彼女がやってきました。三人の男がいっしょでした。おそらく、同じ学科の友人なのでしょう。ぼくの知らない顔ぶれでした。

男たちはみな彼女のご機嫌をうかがうように笑みを浮かべて彼女と話していました。六本の視線が彼女に釘付けになっていました。

食事を持ってきた後も、彼らは「お茶はどう?」とか「お肉切ってあげようか?」などを気を利かせ、正に至れり尽くせり、といった状態でした。

「おや、さすがは恵子だ」と思って見ていると、なにか様子がおかしいのです。

「王女様、いつも美容院はどこへ行ってるの?」とか
「王女様は痩せ過ぎだから、もっと食べた方がいいよ」とか
「王女様はいつみてもきれいだね」とか

男たち三人が、その子のことを「王女様」と呼んでいるのです。

これは何かの悪ふざけではあるまいかと、ぼくは思いました。しかし、恵子の様子をみていると、まんざらでもなさそうなのです。顔をよくみると、微笑をすらたたえているのです。

「おやおや、これは」

ぼくは彼女のことが気になったので、終りまで見届けました。食事が済んだ後も、彼らはなるべく恵子といっしょにいたいという魂胆見え見えの様子で、彼女と楽しそうにおしゃべりをしていました。あいかわらず、彼女のことは「王女様」と呼んでいました。恵子も、それを当然のように受け入れて、言葉少なく会話をしていました。 満足げな表情でした。しかし、しばらくすると飽きたのか、

「それじゃあたし、図書館に行って勉強しなきゃいけないから」

と言いました。男たちは、彼女を引き止めようと、「まだいいじゃん」とか「もう少ししゃべろうよ」などと言うのですが、それを聞いた恵子が少し顔をしかめると、たちまち態度を豹変させ、「あ、ごめん」と言って謝り、「食器はおれが片付けるよ」とまで言い出す始末。しかも、「いや、おれが片付けるって」「お前はこの前片付けたから、きょうはおれだよ」と、恵子の食器片付けで喧嘩になるというありさま。恵子は、それを見て口の端を緩ませていました。

夜、ぼくが図書館で勉強して、さあ帰ろうと外へ出てみると、たまたま恵子と顔をあわせたのでいっしょに帰ることになりました。そこで、ぼくは訊いてやりました。

「恵子ちゃん、きみはいつから王女様になったんだい?」
「え、なんのこと?」

恵子はとぼけています。

「きょう、食堂で男の子たちにそう呼ばれてたじゃないか?」

ぼくがそう言ってやると、彼女はぎくりとしていました。

「そ、そんなの聞きまちがいだよ。いつも名字で呼ばれてるもん」

けど、ぼくは騙されませんでした。こいつは嘘をついていると思いました。

「うそうそ。ぜったい呼ばれてたってば。なんでみんな王女様って呼ぶの?」

彼女は黙り込んでしまいました。

「あ、そう呼んでもらいたくて『王女様って呼んでね』って言ったんだ?」

すると、ぼくは左の拳で頬を殴られました。細い腕のわりには、いいパンチでした。

「痛てて‥‥‥乱暴なお姫様だね。いったいどこの宮殿に住んでるんだい?」

ぼくがそう言ってやると、ちょうど彼女の家の前につきました。すると彼女が、マンションの表札を指差しました。名前を見ると、「京都○○パレス」となっていました。

王女様という呼称も、あながち嘘でもないのでした。


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