2008/05/27

彼女のつくり方(石川啄木編)

さっそく、ぼくは新しい彼女をつくるために動き出した。

やり方はこうだ。

まずはキャンパスをぶらぶらと歩き、それとなくベンチに座っている女の子をチェックする。男といっしょに座っている場合は論外とし、別れることを神に祈って通り過ぎる。友達といっしょにいる子ももちろんスルー。狙うは一人で座っている子だ。

適当なターゲットを発見したら、持参した『キャンパス美女ノート』のページをめくる。このノートには三年二ヶ月かけて蓄積した大学の美女情報が余す所なく記されているのだけれど(現在八冊目に入っている)、その中から彼女の情報を探し出す。

すると、名前の欄はまだ空白だが、「国文学科、石川啄木に興味あり」ということが記されていた。ぼくは彼女がいなくならないうちに、すばやく図書館へ行き、『一握の砂』を借りてきて、隣のベンチに座って読んだ。もちろん、さりげなく表紙をみせ、啄木を読んでることをアピールする。

しかし、長居は禁物である。彼女がまだそこにいるうちに、次の行動に出なくてはならない。ある程度時間がたったら、自然な感じで、ベンチに『一握の砂』を置き忘れたまま立去ろうとするのだ。すると、よほどシャイか冷たい人でなければ、こう声をかけてくれる。

「あの、本忘れてますよ」

きょうもうまくいった。これで、半分成功したも同然である。

「あ、すいません。ありがとうございます」

「いえ。‥‥‥あの、国文学科の方ですか?」

きた。

この彼女の一言で、他人同士という心の壁に亀裂が入り、希望の光が漏れてくる。

「いえ、違うんですけど、啄木がすごく好きなんですよ。なんというか、アウトサイダーなところとか、理想と現実に挟まれた苦しみをうたっているところとか」

「ほんとですか! あたしも啄木が好きで、啄木で卒論書こうと思ってるんです!」

それから、ぼくはもう一度ベンチに座り直して啄木について語った。これで八割方成功したも同然である。 そうして、よきところでこう言う。

「よかったら、喫茶店でもいきませんか? 外は熱いですし」

ぼくは彼女を誘って、キャンパスからすぐ近くの、女の子を口説くときによく使っているお店に入った。そこで、軽い自己紹介とメアドの交換を済ませ、さらに詩歌の話を続けた。

「啄木の詩の中で、どれがいちばん好きですか?」と佐々木さんが尋ねる。

「やっぱりあれですね。ぼくは去年の夏に、実際、函館の方に足を運んだんですけど、その海岸で読まれた歌、

 東海の小島の磯の白砂に
 われ泣きぬれて
 蟹とたはむる

ですね」

これには彼女も賛成してくれ、また一つ、話が盛り上がった。

ここまできたら、あとは口説くのみである。ぼくは自分の気持ちを佐々木さんに伝えた。

「恋しくて速まる胸のこの鼓動
 我の告白
 きみよ拒むな」

すると、佐々木さんが返歌をうたう。

「呆れたるきみの言葉に
 気がつけば
 ブレンド・コーヒーまだ冷めやらず」

どうやら、告白するのがはやすぎたようだ。しかし、ここでひるんではいけない。

「まれにある
 この恋する心には
 一刻のうちに永久が宿りし」

「言の葉を聞けば
 よろこぶわがこころ
 されどきみを信ずべきかな」

「我が瞳
 ひとつの曇りもあらざるに
 ためらう理由の
 いずこにあるや」

(以下、35首ほど省略)

という具合にして、最終的には新しい彼女を獲得した。

ぜひ、みんなも試してみて欲しい。


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