2008/05/07

プリント

ブォンジョルノ(こんにちは)。

実に久しぶりの大学だった。授業があるときはあるときでうんざりするけれど、なければないで寂しいものだ。だから、きょうはいくらか心がうきうきしていた。

「きょうは誰と会えるだろう?」
「どんな発見があるだろう?」

そんな期待を胸にキャンパスにゆくと、無数の学生たちが蜘蛛の子のようにうじゃうじゃいて退学しようと思った。

けれど、そんな誘惑をふりきってぼくはイタリア語の授業が行われる教室に向った。その教室はなぜか薄暗い地下で行われている。こんなところ、魔術の講義とかしかやってないだろうという場所だ。実際(嘘だけど)、隣の教室からは終始怪しい呪文と生け贄に捧げられる子羊の鳴き声が響いていた。

「ブォンジョルノ!」(こんにちは)

イタリア語の授業はこの言葉からはじまる。定番である。中学時代、英語といえば妙にテンションの高い先生の「グッモーニン!」ではじまったし、大学のドイツ語でも「グーテンモルゲン!」で授業が開始される。これらの言葉たちは、人と人が会ったときに交わされるものなのである。人はそれを、「あいさつ」と呼ぶ。卑猥な言葉である。

それにしても、授業を受けにきたはいいが、鼻水が止まらなかった。この二日間の沈黙を破り、鼻炎が再度猛威を振るいはじめたのだ。きっと、ちゃんと毛布をかけて寝なかったからだ。

おれの鼻水は止まらねぇし、おれのライムも止まらねぇ。みんなのハートに響かせるぜムーヴ、水を垂れ流すおバカなノーズ。ビッチの腰に腕回す出歯亀、鼻が詰まるんならさっさと鼻かめ。ヒルズに住むのはファッキンなセレブ、おれの愛用してんの鼻セレブ。半端な奴らはすぐにジ・エンド、おれはいつかこの手で作るぜレジェンド。イェー。

ついラッパーになってしまうほどの鼻炎に、ぼくは心底まいってしまい、仕方なく溢れ出る鼻水を手持ちのハンカチでちーんとかんだ。授業中に、ちーんとかんだ。ティッシュなど持っていないし、それに、欧米ではハンカチで鼻をかむのはふつうのことだからだ。

そんな中、先生がプリントを何枚か配った。そのプリントの束は、前の方の席から回ってくる。ぼくは前の席の人からそれらを受け取り、自分の分を取って、振り返って後ろの席の人に回した。が、後ろにいた女の子が、なんだか不機嫌な顔をしていた。

それからまた何度かハンカチで鼻をかみ、またプリントが配られた。同じように後ろに回した。彼女は、また不機嫌そうな顔をしていた。何秒かの黙考ののち、机に置かれた湿ったハンカチと湿った自分の手を見て気づいた。後ろに回したプリント、完全に、ぼくの鼻水が染みてた。手のひらを媒介して、若干の鼻水が染みてた。

ぼくは、なんだか少し、興奮してしまった。


ライオンキング
この記事へのコメント
また拝見させていただきました。
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Posted by サトシ at 2008年05月08日 23:41
ありがとうございます。これからもポケモンマスターめざしてがんばってください。
Posted by 清水 at 2008年05月09日 20:35
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