2008/03/17

魔城新風館

気の迷いだった、としか言いようがない。

この三日間部屋にこもって本を読んでいたぼくは、お外に出たくなった。たまには人間たちがいるところに行ってみたいって思った。それで、喫茶店にいった。

けど、きょうが日曜日だってことを忘れてた。

外にはいつもより人がたくさんいて、二条城の前を通るときは観光客がいっぱい。喫茶店についたときも、喫煙席しかあいてなくてあまりの煙さに嫌気がさし、抹茶ラテを半分残して店をあとにしたんだ。

「もう家から一歩も出るもんか!」

そう決意した。

ぼくが間違っていたんだ。喫茶店なんかで集中して本が読めるわけない。まして京都の日曜日。ぼくが間違っていた。

だけど、そうやって反省しながら烏丸通を自転車で北上する途中、新風館なる建物が目に入った。

ほんとうの戦いは、ここからはじまる。

新風館(しんぷうかん)というのは、洋服屋や雑貨なんかを扱うお店が集まってる一種の要塞都市である。京都のおしゃれボーイ・おしゃれガールたちのメッカであり、彼ら彼女らは毎日五回、新風館の方角に向かってお祈りを欠かさない。

いつも素通りしてきたその館。このとき、ぼくの気持ちが揺れ動いた。

(せっかく外出したんだし、ちょっと寄ってみるか‥‥‥)

ぼくは新風館の敷地に足を踏み入れた。大きな階段を一歩一歩あがってゆく。両側には3m間隔でイギリス兵のような格好のボディーガードが立っている。もちろんのこと、マシンガンを担いでいる。少しでも不穏な動きを見せたら、即、蜂の巣。

レンガの建物で囲まれた新風館の内部に潜入すると、そこはもはや治外法権。日本の法律は意味をなさない。独自の法と秩序によって成立するその場所に、いくつもの店舗がせめぎあい、中心のステージでは若者が唄を歌っている。日本にはもういないと思っていた魔女がところせましと上空をほうきにまたがって飛び回り、さらにその上空には失われし伝説の空中都市ラピュタが浮いている。

(ここが新風館かぁ‥‥‥)

ぼくは感心した。噂には聞いていたが、ほんとうに実在したとは‥‥‥。

ぼくはきょろきょろしながら、ある一つの店舗に目をつけた。ぼくの記憶が正しければ、そこには、異国の文字で"BEANS"と書かれていた。

(び‥‥‥ビーンズ?)

いったいどんなお店なのだろうと、不安と期待の入り交じった気持ちで店の敷居を跨ぐと、そこにはまばゆいばかりのおしゃれ服が並べられていた。なるほど、大学のおしゃれボーイたちが着てる服はここで入手したものであったかと、ぼくは納得し、いくらかの喜びを感じた。だが、それも束の間、そこにはただならぬ気配が漂っていることに気づく。

その狭い店内には、驚いたことに、おしゃれな人間しかいなかったのだ。「服はまりもっこりを隠せればいい」が座右の銘であるぼくは、完全に浮いていた。ぼくはレベル10でラストダンジョンに迷い込んでしまった勇者のような気持ちになった。まだ銅の剣とか使ってるのに!

実際、そこには別世界の住人であろう人々がたくさんいて、ぼくは心底参ってしまい、一瞬で髪の毛がすべて真っ白になった。

「いらっしゃいませー」

と、カノジョが7、8人はいそうなイケメンの店員が朗らかに声をあげる。また、別の場所をみると、ぼくと同い年くらいのカップルがいて、

「ねぇユウジ、これどう?」

「それメンズじゃーん」

「Sだったら着れるよー」

という万死に値する会話を繰り広げている。ぼくは久しぶりに純粋な(おそらく血統書付きの)ギャルを目撃して、恐怖と好奇心の入り交じった気持ちを抱いた。しかも、よくよく観察してみると、彼女の髪の毛には赤色のエクステが付けられているではないか!

(そ、そんな馬鹿な話が‥‥‥)

ぼくは驚きのあまり髪の毛がぜんぶ紫色に変色し眉毛が5cmは伸びた。まさか黒髪の中に赤いエクステを埋め込むなどという行為が許されるなんて‥‥‥。ああ、ぼくはなんてところに迷い込んでしまったんだろう。

後悔の念に打ちひしがれていると、周囲の人々がぼくのことを馬鹿にしているのが聞こえてくるような気がした。

ひそひそ‥‥‥

(貧乏人のくせに‥‥‥)

(お前みたいな奴はユニクロいけよ、ユニクロ‥‥‥)

(これだから2浪は‥‥‥)

(うわぁー、どこからどう見ても変態‥‥‥)

などなど、ぼくに対する罵詈雑言の数々。もはや、ぼくのHPは残り3である。

そんなとき、一人の異質な男が目に飛び込んできた。その外貌からして、彼は他のギャルやギャル男とは違うようだ。むしろ、同志であると言ってよいだろう。ぼくは彼の身を案じた。

(やめとけ! お前には無理だ!)

ぼくが目で合図をすると、彼はそれに気づいたようだったが、静かに首を振っておくに進んで行った。

(やめろ、そっちに行っちゃだめだ!)

そう、彼の足の向かう先は、ビーンズの中でも高額の商品が集められた毒の沼なのである。しかし、彼はもはや振り返ることもなく、自ら死地に赴いた。その後ろ姿には、太平洋戦争の頃、御国のために米英の母艦に突撃していった神風特攻隊と同じ憂いがにじみ出ていた。直後、店の奥の方で「天皇陛下バンザーイ!」のかけ声が聞こえ、炸裂音の後、辺りには硝煙の臭いが立ちこめた。

ぼくは同志を失ったことで戦意を消失し、また、パーカーが1万円とかしてなんか嫌になったので、店を出た。全身は恐怖で汗ばんでいた。どうして洋服屋というのは、どこもこんなに暑いのだろうか?

新風館に足を踏み込んだ当初、正直に言えば、ぼくはおしゃれへの欲求を感じていた。ぼくもおしゃれになりたい。イケてる大学生になりたい。女の子にモテたい。そんな気持ちだった。けれど、希望を抱いて入ってみたそこの空気は、ぼくという異物を拒絶しており、ぼくの方も、そこの空気を吸っては生きられないことが分かった。そこに吹く風は、ぼくには合わなかったのだ。

もと来た大階段を下り、ぼくは自転車にまたがりペダルをこいだ。じっとり汗ばんだからだに、風が心地よく吹き付ける。ふと後ろを振り返ると、レンガ造りのおしゃれな新風館は、いつにも増して邪悪なオーラを発して、近寄る者を圧倒していた。

ぼくは自転車で走りながら、爽快な気持ちになった。そして、ふと一つの考えが頭に浮かんできた。それは、こういう考えだった。


(そうだ、ユニクロ行こう)
この記事へのコメント
鳥島さん、もうニコ動に動画うpしないんですか??
Posted by at 2008年03月18日 22:11
だからどうしてこのブログが分かったんだよー! あと、もしかして外国在住の方ですか?

正直今は哲学と語学に夢中で動画をとる気にはなれませぬ‥‥‥。あと、しゃべるの苦手ですし。やっぱり文章が好きなのです。
Posted by 清水 at 2008年03月18日 23:51
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