大学に入ってゆくと、そこには大学生らしいお兄さんやお姉さんがいっぱいいた。年の頃、二十歳そこそこ。「これが大学かー」と思い、胸がわくわくしてきた。
けれど、ぼくはバカではないので、すぐ「自分も大学生だ!」と気づいた。しかもしかも、ぼくはもう卒業間近の四年生なのだ。
あたりまえのことなのに、にわかには信じられない事実だ。こんなに大きいお兄さんやお姉さんが大学にいっぱいいて、そんな中で、ぼくが最高学年だなんて。もう少ししたら、ぼくがそこを卒業してしまうだなんて。
「ぼくは、永遠の中学生なんだ」
そう思った。
すると、そこに現れたのは友だちのよっちゃんだ。大学に行くとぜったいよっちゃんがいる。たぶん、あいつはぼくのストーカーで、予知能力を持ったストーカーなんだ。
「あけましておめでとう」
と、微笑みながら言うよっちゃん。
「おめでとう、あけまして」
と言うぼく。
「なんで逆にするの、清水くん?」
「そりゃ、ぼくは外国語を勉強しているし、ヨーロッパにとても憧れているからね。あいさつも英語式に言うってわけさ。英語ではハッピー・ニューイヤーって言うだろう? まず、ドーンとハッピーであることを言って、それから、なぜならニューイヤーだからだよ、って言うのが欧米風なんだ。こう、はじめに大事なことをドンと主張して、理由は後からくっつけるんだ。アイアムハッピー、ビコーズ、ニューイヤーだから、ってわけさ。それを日本語に応用すると、さっきみたいな挨拶になるわけだよ」
「ふーん。きょうは授業?」
「そうだよ。よっちゃんは?」
「これから友だちとお食事」
「ああ、また女の子を集めてハーレム気分でうはうはタイムかい? いいねぇ。豪奢だねぇ。華奢だねぇ。え、なにを食べるの? 魚? 鳥? それともグラムバーで野菜をたっぷり食べる? ライスは、S? M? Sを2杯? Lの半ライス? それともおかずは食べるけどご飯はなし、っていう華奢な女の子にありがちなパターン?」
「違うよ」
「ところで、実家からワインをもらってきたんだけど、今夜どう?」
「無理。なんで実家からワインをもらってくるなんていうおしゃれなことしてんの? 清水くんのくせに」
「親戚が農家で、ワインもつくってるんだ」
「へぇ」
「あしたか、週末なんかどう?」
「ごめんね。もうずっと、毎晩が飲み会なんだよ。だから行けないの。清水くんに誘われる日は100%の確率でたまたま用事があるの、未来永劫に渡って」
「そっか。必然的な偶然って、あるんだね」
「そうよ。女の子にはよくあることよ」
「じゃ、またね!」
「ばいばい!」
という会話を、まあ、九割以上ウソなんだけど、した。
そんな、初登校の日。