2008/10/28

作者急病のため

今日はわたくし、岬が日記を書くことにします。

昨日から発症した風邪のせいで、清水くんは部屋のベッドで過ごしております。

といっても、眠っているわけではなく、鼻をかんだティッシュの山に囲まれて(中には別のティッシュもあるかもしれませんが)漫画を読んでいます。あたしが借りてきてあげた漫画を読んでいます。

「風邪のときは漫画がいちばんの薬なんだ」

彼はそうおっしゃっております。この前韓国人にもらった高麗人参のお茶を飲みつつ、Steel Ball Runを読んでいます。

「サンドマンが死んだのは残念だった」
「このシーンは二部のカーズのパロディだね」
「ホットパンツはジョリーンと何か関わりが?」

などなど、熱に浮かされたようなことをときおり呟いて‥‥‥。

その割には三限の授業には行ってきたのです。さすがにしんどかったらしく、四限は欠席したようですが、一度学校には行ったのです。よく分からない人です。そして夜の家庭教師はキャンセルです。

「Steel Ball Runは読んじゃったから、岬ちゃん、こんどは別の漫画を借りてきてくれ」

彼がそう言うので、あたしは最近漫画を扱いはじめたビデオ屋までひとっ走りして、今度は別の漫画をかりてきました。

「はい、どうぞ。『30婚』(ミソコン)と『好きっていいなよ。』だよ」

「しょ、少女漫画!? しかも、ミソコンの方は6巻だけ? なんてひどいチョイスだ!」

もちろん清水くんに気に入ってもらえないことは分かっていたのですが、清水くんは少女漫画でも読んで女心を勉強した方がいいのです。あんな手足が吹き飛ぶような漫画ばかり読んでいたら、女の子に好かれないのです。それに、少年誌でやってるような漫画では女心の参考にはなりません。二度と『ふたりエッチ』や『DNA2』を読むのをやめ(読んでなかったかもしれませんが)、女性作家が描いている女性向けのものを読めばいいのです。

そしたら、一ヶ月後には女心に精通し、大学に行くときとかに、

「おはよう、悦子」

「おはよう清水くん」

「悦子、靴下逆に履いてるぞ」

「え、ウソッ!?」(足下を見る悦子。汗をかく)

「ウソだよー! また騙されたな、アホ悦子!」

「んもーっ!」プンプン

自転車で大学の門へと入ってゆく清水くん。歩きなので取り残される悦子。

(バカ清水! ‥‥‥でも、なぜだろう? あたし、胸がドキドキしてる。まさか、あたし‥‥‥あいつのこと‥‥‥)背景に小さい花。

教室、ホームルームの時間。

「よーし、席替えするぞー! みんな紙に名前を書いて提出するように」

席替え。 隣同士になってしまった清水くんと悦子。

「「えー! なんであたし/おれがこいつの隣なんだよ!!」」

顔を見合わせ叫ぶ二人。

「公平にクジで決めたんだから、文句を言うな!」と先生。

「はぁ‥‥‥悦子の隣なんて、アホがうつりそうで怖いぜ」

「こっちこそ。あんたの性悪が伝染してお嫁に行けなくなったらどうしよう!」

背景、火花。

しかし、こんな険悪な二人の仲も、ちょっとしたきっかけからいい方向に変るのでした。

それはある日、夕暮れの下校時。

悦子の前を清水くんが歩いております。

(やだ、あいつと下校時刻がカブるなんて‥‥‥。ゆっくり歩いて追いつかないようにしなきゃ)

そのとき、なんと、公園からボールを追っかけてきた小学生の男の子が道路に飛び出したのです!

「危ない!」

子どもを助けようと道路に飛び出した清水くん! 急ブレーキをかける車! けど、ギリギリで避けることができました! よかったわ、清水くん!

「だ、大丈夫かい? 坊や?」

「う、うん」

見ていた悦子も、清水くんたちに駆け寄ります。

「大丈夫だった、清水くん?」

「悦子。ああ、おれなら心配ない」と言って立とうとする清水くんでしたが、「痛っ!」どうやら右手首をひねってしまったようです。

「大丈夫じゃないじゃない。ほら、右手見せて」

手当をする悦子。近づく頬と頬。背景にシャボン玉っぽいトーン。赤らむ二人の頬。

「わるいな。いつもからかってばかりいるのに」

「ケガしてたら助けるの、当たり前でしょ? たとえそれがあんたみたいなバカでもね」

「ありがとう」

「あんたが子どもを助けるなんて、いいところもあるのね。見直したわ」

このとき、悦子ははじめて清水くんが照れているところを見たのでした。

このあと、助けた小学生の姉(かな、高校一年生)が登場し、悦子とかなと清水くんの三角関係ができあがり、それからいろいろあって最終的に悦子とつきあうことになるのですが、大学受験後を描いた第二部では新しい女の子も登場してスタンドとかも使えるようになって、ストーリーは盛り上がりを見せるのですが、それはあとのお話。とりあえず、こうやって女の子との甘い関係がはじまってゆくのです。

「だから、少女漫画をお読みなさい」

清水くんは鼻をすすりながらミソコンを読み始めました。

「岬ちゃん」

「なに?」

「30歳の女の人ってどこにいる?」

食いついた!

「えっと、えっと‥‥‥」

でも、あたしには三十路の女性が生息しているスポットなど分からないのです。

「30歳か‥‥‥働いてればそこそこ金もあるだろうし‥‥‥競争率‥‥‥経験‥‥‥ヒモ生活‥‥‥」

すでに清水くんの頭の中には新しい宇宙が誕生したようです。脳内ビッグバンが発生したようです。けど、清水くんを熟女ハンターにしてしまってよいのでしょうか? 出現率の極めて低い獲物を狙い、しかもハンティングの腕は平均的中学生以下。小池くんのような母性本能くすぐりフェロモンを放出していない彼にとって、それは茨の道ではないでしょうか?

「清水くん、それを考える前に、そっちの『好きっていいなよ。』を読んでみたら? また考えが変るかもしれないわ」

「それもそうだね」

それからしばらく、清水くんは『好きっていいなよ。』を読んでいました。

「岬ちゃん」清水くんが漫画から顔を上げます。「女子高生って、どうやったら知り合える?」

しまったぁ! あの漫画は主人公が女子高生だったのでした。あわわわ‥‥‥。このままだと清水くんが進んではいけない道に進んでしまうかもしれない。ノー・モア・東! ノー・モア・板尾! ノー・モア・しまぶー!!

「大学生の清水くんが女子高生と知り合うなんてほとんど不可能よ。別に、女子高生にこだわる必要はないわ。大学生でいいじゃないの!」

「副専攻なんかじゃなく、教員免許を取っとくんだった‥‥‥」

「清水くん、高校生とつきあうなんて、そう簡単にできることじゃないわ」

「しかし、可能性は‥‥‥」

「条例の存在を思い出して!!」

京都府 青少年の健全な育成に関する条例 21条 第2項
何人も、青少年に対し、淫行又はわいせつ行為を教え、又は見せてはならない。
一年以下の懲役又は五十万円以下の罰金

「うわあっ!」

「これでもあなたは女子高生ハンターになれるかしら? この条例の危険をかいくぐって、警察の目をすり抜け、親の存在という圧力にも耐えることがっ!?」

「で、できない‥‥‥。おれには、無理だ‥‥‥」

清水くんはその場で泣き崩れてしまいました。彼は弱い人なんです。とてもJKハンターになれる器ではないのです。

「顔を上げて、清水くん。弱い自分を卑下することはないわ。むしろ、それでいいのよ」

「岬ちゃん‥‥‥」

「ほら、涙を拭って‥‥‥。窓を外をごらんなさい。今夜は、月がきれいね」

夜空に輝くお月さまは、とってもまんまるで、まるで、極楽とんぼの山本さんの顔のように見えました。

(そう、それでいいんだ‥‥‥)

お月さまは、そうつぶやいたように聞こえました。あたしには、確かに、聞こえたのです。
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