そんなに慌てて行ってしまわなくてもいいじゃないか。いくら俺が毎日冷房使ってたからって、別に、そんな、きみが嫌いだったわけじゃないんだ。だから、さ、機嫌直してよ。ねっ?
え、「秋の方が好き」って言ってたって? 俺が? そんなことないって。あの時の俺はどうかしてたんだ。たぶん、暑くて頭がボーッとしてて‥‥‥いや、きみのせいじゃないよ! あ、うん、きみのせいといえばそうなんだけど、でも、きみが悪いわけじゃないんだ。
だから、そんな急に冷たくしないでよ。寂しくなっちゃうよ。夜、半袖で外に出たら肌寒いんだもん、びっくりしちゃうよ。あの頃の情熱的なきみに戻ってくれ。まだお祭りも行ってないし、花火もみてないんだから。
「どうせインドアでずっと過ごすんでしょ?」だって? まあ、そう言われると言い返せないんだけど。でも、努力するから。俺なりに夏を謳歌するから。わざと直射日光浴びつつ汗だくになってコンビニまで歩くからさ。なんならもう、クーラー使わない。あいつとは縁を切る。口もきかない。それでもだめ?
うんうん、ほんとほんと! 嘘じゃねぇって! お前が四季の中でいちばんだよ。なんたって、いちばん輝いてるもん。冬なんて無愛想で暗いし、春は花粉症でつらいし、秋は八方美人過ぎてイヤになるよ。夏がいちばんさ。だから、もっと俺の側にいてくれよ‥‥‥。
「しょうがないな」
こうして、秋の到来は遠ざかり、残暑が人々を悩ませるのでした。